渉外業務

外国会社の登記事項に関する実務整理と会社法933条2項に基づく登記事項の取扱い

外国会社の日本支店設立

外国会社の登記は、国内法人登記とは異なり、各国の制度との照合を要するため、実務上きわめて判断が難しい領域です。
会社法933条2項は、次のように規定しています。

「外国会社は、日本における同種の会社又は最も類似する会社の種類に従い、日本における登記事項とされている事項を登記しなければならない。」

この「同種又は類似会社」の基準を前提とした運用には、各国制度との比較・翻訳・整合が必要であり、登記所の取扱も統一されていません。
本稿では、実務上の主要論点を整理します。

基本原則「ないものは登記しなくてよい」

外国会社の準拠法上、日本の会社法に対応する制度が存在しない事項については、登記を省略してよいとされています。
この点については、亀田哲『外国会社と登記』においても「外国法上存在しない制度についてまで登記を強制すべきでない」との見解が示されています。
実務上も、法務局はこの取扱いに基づいて運用しており、たとえば「発行可能株式総数」などの制度が存在しない場合には、無理に登記を求めていません。

商号の表示方法

外国会社の商号は、原則として外国文字そのままでは登記不可とされ、
アルファベット表記またはカタカナ表記で登記する運用が定着しています。
ただし、原語がアルファベット表記の場合はそのまま登記が可能です(例:Google LLCなど)。

一方、中国・台湾など、漢字で法人登記されている会社は、原字(繁体字・簡体字)のまま登記される実例も確認されています。
カタカナ引き直しは慣例上の運用にすぎず、発音上の不正確さから、将来的な見直しの余地も指摘されています。

本店の所在場所の取扱い

外国会社では、本国登記簿において「Registered Address(登録住所)」と「Principal Business Office(主たる事業所)」の2種類が併記されていることがあります。
どちらを登記すべきかについて統一的な先例はなく、実務上は会社の希望に応じていずれかを選択して登記しているのが現状です。

Registered Addressは訴状等の送達先(代理人住所)であることが多く、
日本でいう「本店」に近いのはむしろPrincipal Business Officeと考えられます。
ただし、どちらも公的記録で確認可能であれば、どちらを登記しても差し支えないとされています。

なお、日本の登記制度では本店住所を一つしか記載できないため、両方を登記することは想定されていません。

支店の所在場所

理論上は、外国会社が日本国内で設置した支店をすべて登記することが必要ですが、
グローバル企業の場合、現実的には主要拠点のみ登記する例が多く見られます。

これは、会社法上の「支店」の定義が明確でなく、
営業所・出張所などの扱いが一律ではないことに起因します。
したがって、実務上は営業活動の実態に基づいて判断されており、
「登記された支店=会社法上の支店」と整理する取扱いも存在します。

役員の資格・肩書の表示

外国会社の代表者・役員の資格名称については、
①原語のカタカナ転写、または
②日本語訳(取締役・執行役など)
のいずれでも登記可能とされています。

ただし、法務省が公表している申請書記載例(令和6年5月時点)では、
「本国における代表者について、各国の実情に合わせて代表取締役又は代表執行役のいずれかを記載する」と明示されています。

このため、近年は「取締役」「執行役」等への統一を指導する傾向も見られます。

公告方法の登記事項

(1) 登記事項の範囲
外国会社は、会社法939条2項の規定に基づき、日本国内で公告方法を定めるとともに、
「準拠法の規定による公告方法」も登記する必要があります。

(2) 日本国内での公告方法
外国会社に公告義務が生じる場面は、主に決算公告(会社法819条)に限られます。
そのため、多くの外国会社は公告方法として官報を選択しています。
また、代表者退任公告(会社法820条)は公告方法に関わらず官報掲載が義務づけられています。

(3) 準拠法による公告方法
本国の登記簿や定款に公告方法の定めがある場合には、それを登記しますが、実際には登記していない例も少なくありません。
これは、(a) 類似会社が株式会社ではない、または(b) 準拠法に公告規定がない場合に、
「登記すべき事項が存在しない」との整理が採られているためです。

(4) 公告URLの登記
決算公告を本国のウェブサイトで行う場合、URLを公告方法として登記する取扱いもみられます。
外国会社にとっては事務負担の軽減策となっています。

発行可能株式総数

ドイツなど一部の国では、日本の会社法における「発行可能株式総数」に該当する概念が存在せず、
「授権資本金額」として規定されています。このような場合、「ないものは登記しなくてよい」原則に基づき、日本の基準で数値を算出して登記することは求められません。

種類株式の内容

外国会社の定款や登録簿に、「優先株式その他の権利・制限を取締役会の裁量で定める」旨が記載されている場合、そのままの内容で登記されている実例もあります。
日本の会社法下の厳格な規定(会社法108条)とは異なりますが、外国会社としての実情を尊重する運用が行われています。

国名の表記

国名の記載については、外務省作成の「国名表」に準拠するのが相当とする見解があるものの、
実際には「米国」「アメリカ合衆国」など表記に揺れがあります。
申請人が申請したとおりに登記される例が多く、法務局から補正を求められることは少ないといわれています。
ただし、実例としては「〇〇共和国」「〇〇連邦共和国」などの正式表記が一般的です。

本コラムのまとめ

外国会社の登記事項は、会社法933条2項の「同種又は最も類似する会社」の基準をもとに、存在しない制度は登記不要、存在する制度は日本の登記体系に整合する形で登記するという整理が基本です。
商号・役職・公告方法など、法務局の実務運用にも差異があるため、個別事案では事前の照会と先例調査が不可欠です。

手続きのご依頼・ご相談

本日は、外国会社の登記事項に関する実務整理と会社法933条2項に基づく登記事項の取扱いについて解説しました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。

本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

ご相談・ご依頼はこちら
お問い合わせ LINE

ご相談・お問い合わせはこちらから