組織再編と商号変更、同一商号・同一本店を生ませない実務設計
組織再編と商号変更
新設分割で親会社と同じ商号(同一本店)の新会社を立ち上げ、その直後に親会社を吸収合併で消滅させる——現場では珍しくない設計です。
目的は明快で、①対外的な連続性(看板を変えない)、②預金口座や請求書実務の混乱回避(口座番号を変えない等)を狙うもの。
しかし、商業登記の原則は同一商号・同一本店は不可。再編の効力発生が同時でも、申請手続と審査は“別の登記”として処理されるため、段取りを誤ると一時的に「同一商号・同一本店が並存」する構図になり、受理リスクが立ち上がります。
本稿では、新設分割→即時吸収合併の並行スキームを題材に、
・どこが受理の分水嶺になるのか
・「連件申請」でもなお残るリスクは何か
・安全側に倒すための商号・タイミング設計の選択肢
を、実務基準に落として整理します。
原則確認、同一商号・同一本店は認めない
自然人は不動産登記で生年月日等で区別できますが、法人は商号×本店の組み合わせで特定します。
したがって、同時に“同一商号・同一本店”が2件存在する見え方は避ける必要があります。
よくある設計、新設分割A’(商号A)+分割会社Aは同時に合併消滅
・想定:Aが新設分割でA’(商号A)を設立し、同一効力発生日にAはBへ吸収合併され消滅。
・狙い:A’が商号Aを継承。第三者からは「看板不変」。
・論点:登記は①A’の設立、②Aの分割による変更、③Aの合併消滅、④(必要ならB側の変更)……など複数の登記に分かれます。
たとえ連件申請でも、任意連件に過ぎず、個別登記が一部不受理になり得る(=その刹那、同一商号が並ぶリスク)。
実務上の考え方
・管轄登記所:効力発生・登記完了の結果として同一商号が残らないなら良い、という柔軟な判断となることも。
・本局見解:任意連件はどれか一つが不受理でも他が通る可能性があり、分割だけ先に成立→Aが存続だとA’とAが同一商号になり得る。原則は不可。
重要→「実体は同時に併存していない」という主張は、申請・審査の単位では通用しないことがある、という前提で設計する。
受理可能性を高める3つのポイント
1.合併に条件付条項を入れる
・新設分割の効力発生を停止条件とし、分割が成立しなければ合併は効力を生じないと定める。
・併せて、申請書にも前提関係を明記し、審査の順序付け(処理順)を相談する。
・それでも合併側だけに瑕疵があれば、分割成立→A存続のリスクが残る点は要認識。
2.一時的な商号変更(当て馬)で衝突回避
いわゆる「当て馬」を使う古典的手法。
例)
① A→C(仮商号)
② 新設分割でA’=Aを設立
③ C→(将来の意図に応じて)別商号
・処理が一段増えますが、同一商号衝突を物理的に除去でき、審査側も乗りやすい。
3.前株/後株など軽微な差異で錯綜回避
・「株式会社A」⇄「A株式会社」や「Aホールディングス」等へのワンステップ変更で衝突を避け、のちに回復。
・代表者印や案内状の再整備は最小化できることが多い。
当て馬か前後株のいずれかを一度入れておく方が、受付・審査の不確実性を最小化できます。
申請実務のチェックリスト(連件前提)
事前設計
・〔必須〕効力発生日と処理順序をタイムライン化(分割→合併の前提関係を明文化)
・〔推奨〕合併に停止条件/当て馬商号採用の是非を決定
・〔確認〕印鑑届出・代表者の届出印切替タイミング(一瞬でも交換が必要になる場合の社内体制)
書面・申請
・連件の各申請書に前提関係(停止条件・効力同日)を注記
・新設分割:設立登記(商号A’=A)
・分割会社:分割による変更(必要な場合)+(仮)商号変更
・合併:消滅・存続の各登記
・事後:商号回復(当て馬方式の場合)
想定問答
・「任意連件である以上、分割だけ先行受理になったら?」
→ 合併に停止条件を付し、同時審査の運用を相談済みである旨を説明。
・「同一商号の一瞬の並存をどう防ぐ?」
→ 当て馬を採用、または前後株で衝突を外し、後日回復する計画を提示。
ひと手間が結果的に最短距離
・任意連件は保険ではない。どれか一つの不受理で同一商号の並存懸念が立ち上がる。
・停止条件の付与と当て馬(または前後株)のどちらかで、受理の不確実性を排除するのが実務解。
・口座・対外連絡の混乱回避は大切だが、登記の確実性を最優先に置いた設計がトータルコスト最小につながる。
ひとことで言えば——
「同一商号を“生ませない”段取り」を最初に入れておく。これが、再編登記をきれいに通す最短ルートです。
手続きのご依頼・ご相談
本日は、組織再編と商号変更、同一商号・同一本店を生ませない実務設計について解説しました。
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