原本証明の日付はいつにすべきか?定款・株主名簿をめぐる実務の迷いを整理
はじめに
登記添付で「原本証明付きの定款を出してください」と求められる場面が増えています。
ところが原本証明の“日付”をいつに置くべきかについては、現場で判断が割れがちです。本稿では、実際にあった補正事例と考察をもとに、実務の勘所を整理します。
原本証明とは何か(本稿の前提)
登記に添付する定款や株主名簿は、原本の提示・還付を前提としないことが多く、会社が自己証明した写しを提出します。
「原始定款」がそのまま現行定款であれば、公証人認証済の原始定款を添付すれば足り、原本証明は不要です。
原始定款から内容変更後の定款を添付する場合は、会社が「これが当社の定款です」と会社実印で証明するのが実務です。
もちろん「原始定款+定款変更議事録(原本)」で積み上げる方法もありますが、手間がかかるため通常は用いません。
「いつ・だれが」原本証明するのか
法令で画一の定めはなく運用事項です。
実務では、会社実印の届出者(代表取締役)が証明者となります。
印鑑照合の観点から、現在の代表者名義での証明が無難です。
代表者交代を伴う申請では、交代後の代表者が就任した日以降の日付で証明するのが一般的です。
ただし、実務の運用は法務局によって温度差があり、実務家間でも判断が割れます。
補正が出たケースと現場感覚
ケース・取締役会の書面決議で代表取締役を選定。
定款添付が必要なため会社から送られてきた「原本証明付き定款」をそのまま提出したところ、証明日が取締役会決議日前、かつ旧代表取締役名義で、補正に。
指摘の趣旨
・「取締役会の書面決議ができる旨の定款規定が、決議時点で存在することを示すべき。
・“現行定款に相違ない”という証明が決議日前だと、その時点での現行性は示せても、決議時点の現行性まで直結しない。」
所感(実務で感じる論点)
・提出された定款は提出時点の現行定款として扱うのが素直で、証明日の古新だけで否定はしづらい。
・一方で、印鑑照合の観点から現代表者名義・安全な日付で整える運用は理解できる。
・実際、証明日が空欄でも受理されたとの現場情報もあり、運用差は小さくない。
株主名簿の「証明日」をどう考えるか
例)株券廃止の場面で、株主名簿の証明日をいつに置くか。
定款変更(株券発行定めの廃止)の効力が出る前に、株券が発行されていないことを示す必要がある。
では、効力発生の直前日でなければ足りないのか、1か月前でもよいのか……等、“どの時点の事実”を必要とするかで思考が迷走しやすい。
結局のところ、株主名簿は会社が証明する資料であり、何をいつの時点で証明する必要があるのかを個々の手続目的から逆算して整える、という実務的割り切りが求められます。
実務メモ(迷いを減らす整え方)
原本証明の“誰・いつ”
・誰:原則、現代表取締役(会社実印)。
・いつ:決議・申請の基準時点以降に置くのが無難。交代を伴うなら就任日以降。
定款を添付する典型場面
取締役会の書面決議ができる旨を求められるとき
→ 書面決議の基準時点に存在する定款規定であることを示せるよう、証明者・日付を整える。
現行性の考え方
・形式上は、提出された定款=現行定款として扱うのが素直。
・ただし現場では、安全な日付・現代表者名義で再証明を求められることがある(補正回避の観点)。
運用差への対応
・事前に提出先の運用感覚を把握し、無難な日付・名義で用意しておく。
・どうしても過去日付・旧代表名義の書式しか手元にない場合は、差替え前提でスケジュールを組む。
本コラムのまとめ
・原本証明の“正解日付”が明文で決まっているわけではなく、目的適合性と印鑑照合の実務がカギです。
・安全運用を取るなら、現代表者名義で、当該決議・手続の基準時点以降を証明日に置くのが無難。
・一方で、「提出された定款を現行と扱うべき」という考え方も根強く、受理運用には幅があります。
・いずれにせよ、補正で時間を失わないことが最重要。迷う場面では、証明者・日付を“今”に寄せるのが現実解です。
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本日は、原本証明の日付はいつにすべきか?定款・株主名簿をめぐる実務の迷いを整理を解説いたしました。
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