吸収合併

合併・商号変更・他管轄本店移転を同日に行うときの登記実務、順序設計・申請人表示・証明書取得タイミングを一気通貫で整理

結論(本コラムの要点)

管轄外本店移転は旧→新の「経由同時申請」のため、新本店管轄で登記が受理・実行された後に旧本店管轄が閉鎖される。
合併登記(存続・消滅)と管轄外本店移転は、一括に混ぜず系統ごとに分けて設計する(混在させると手続順序が破綻する)。
商号変更は、本店移転「前」でも「後」でも運用上は申請可だが、履歴事項全部証明書に載せたい事実を基準に順序を組む。
・電子申請では、「手続終了」表示=一連の完了ではない(存続会社のみ終了表示→消滅会社は未了、等)。証明書の取得可能時点と「手続終了」表示はズレる。
・申請人欄の本店表示は原則「申請時点の最新」だが、管轄外本店移転と併行する特殊ケースでは便宜旧本店表示を用いる実務がある。

基本フローと“経由同時申請”

管轄外本店移転(旧→新)
1.旧管轄に2件を同時申請
 ①旧管轄分(本店移転+他の変更があれば同時に可能)
 ②新管轄分(「本店移転に関する事項」のみ。旧から新へ送付)
2.旧管轄で調査→新管轄へ送付→新管轄で受付・実行
3.新管轄完了の通知を受けて旧管轄が閉鎖

ポイント
・登記日は、新管轄は到達・受付日、旧管轄は閉鎖日。
・オンラインの「手続終了は旧管轄側の完了表示であり、新管轄の証明書はそれ以前に取得可能。」


合併+管轄外本店移転をどう分けるか

合併と本店移転は系統ごとに分割する。

悪手(混在)を避ける
「存続会社の合併+本店移転」を旧管轄で一括にすると、新管轄受理前に旧が閉鎖し得るなど、順序破綻のリスク。

推奨パターン(例)
パターンA(証明書に“合併”を確実に載せたい)
1.旧:本店移転(+必要なら商号変更)
2.新:本店移転(経由受理・実行)
3.新:存続会社の合併登記/消滅会社の解散登記
 → 新本店の履歴事項全部証明書に合併(と必要なら商号変更)を反映。

パターンB(時間優先。旧でまとめたい変更が多い)
1.旧:存続会社の合併+商号変更/乙:消滅会社の解散
2.旧:本店移転 → 新:本店移転
 → 新本店の履歴には合併が載らない(現効でないため)。旧の閉鎖証明書も併用して説明。

どちらも正解足り得る。“どの証明書に何を載せたいか/いつ必要か”で順序を選択する。

商号変更を「本店移転後に」申請できるか

・実務照会の結果、本店移転後に商号変更を申請することは可能。
・ただし、申請人表示(商号・本店)の整合と、証明書上の載り方が設計意図に合うかを確認。
新管轄で合併+商号変更を置く設計にすれば、新本店の履歴にまとめて載る。

申請人表示・委任状・改印の扱い

本店表示:原則は申請時点の最新。ただし、
 合併+管轄外本店移転の同日連件では、便宜旧本店表示を用いる(委任状・株主リスト・上申書も旧本店で揃える)。
商号:本店移転後に商号変更を申請する場合、先行手続の書類は旧商号、後続申請は新商号で整える。
・改印届:改印はいずれのタイミングでも可だが、新本店での取得時期や証明書運用を逆算して選ぶ。


電子申請の“表示”と証明書の取得タイミング

合併(存続・消滅)を別管轄で処理する場合、存続会社が「手続終了」でも、消滅会社未了という表示が起こり得る。
新本店の登記事項証明書/印鑑証明書は、新管轄登記完了の時点で取得可能(旧の「手続終了」を待たない)。
・実務では、電話等で新管轄の受付済確認→オンライン申請を行う場面もある。

よく使う順序設計(早見)

目的 順序(旧→新) 証明書に載る事項(新本店・履歴) コメント
新本店の履歴に合併も商号も載せたい 旧:本移→新:本移 → 新:合併+商号 合併・商号・本店 二段階になる分、若干時間は要する
時間短縮・旧で変更を先に固めたい 旧:合併+商号 → 乙:消滅 → 旧:本移 → 新:本移 本店のみ(合併・商号は旧の閉鎖側) 証明関係は閉鎖事項証明書で補う
商号変更を新でまとめたい 旧:本移 → 新:本移 → 新:合併+商号 合併・商号・本店 申請人表示の整合に注意


実務メモ(落とし穴)

申請人の代表取締役の交代が絡むとき申請権限者の時点管理に注意(旧本店での申請が無難)。
役員の“並べ順”を新本店で整えたいニーズは根強い。先例により、新管轄への移記では申請側で順序設計が可能だが、別紙省略運用を使うと並び替えの自由度が下がる。
・新本店で“現に効力を有する事項のみ”が移記されるため、直近の変更履歴(例:商号)は新側に載らない。載せたいなら順序で調整する。

まとめ(運用指針)

1.系統を混ぜない(合併系/本店移転系を分ける)。
2.何をどの証明書に載せるかから逆算して順序を決める。
3.申請人表示と添付一式は同じ表示で統一(便宜旧本店の活用を含む)。
4.「手続終了」表示に依存せず、新管轄完了=証明取得可能と覚える。

この設計を押さえておけば、登記審査の無用な往復や証明書の“載り方ミスマッチ”を避け、最短で必要書類を揃えられます。

手続きのご依頼・ご相談

本日は、合併・商号変更・他管轄本店移転を同日に行うときの登記実務、順序設計・申請人表示・証明書取得タイミングを整理しました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。

本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

ご相談・ご依頼はこちら
お問い合わせ LINE

ご相談・お問い合わせはこちらから