新設型組織再編における「設立時代表取締役」の選定方法を整理する
新設型組織再編における設立時代表取締役
新設分割・株式移転などの新設型組織再編では、設立登記の体裁を取りつつも、通常の発起設立とは意思決定の主体や添付書類の性質が微妙に異なります。
とくに設立時代表取締役の決め方は「誰が・いつ・どうやって」選定するのかで迷いがちです。過去回の論点を横串で整理します。
通常の設立(発起設立)
取締役会設置会社
原則:設立時取締役の互選で設立時代表取締役を選定。
例外:定款で①代表取締役を直接定める、または②発起人が選定する旨を定める(発起人の過半数一致)。
取締役会非設置会社
原則:発起人の過半数一致で設立時代表取締役を選定。
例外:定款で①代表取締役を直接定める、または②設立時取締役の互選とする旨を定める。
※定款に何も定めない場合、全員が設立時代表取締役となる取扱い。
ポイント:「設立時」の選定方法は、設立後の定款の選定方法と同じとは限らない(設立後の規定は原則無関係)。
特例有限会社の「株式会社への商号変更」
・既存会社の代表者選定は、移行後の定款規定に従う。
・商号変更は登記が効力要件のため、登記前には取締役会が存在しないケースがあり得る。
→ この場合は定款で代表取締役を定めるのが実務解。
互選でいく設計でも、改選前後で取締役が同一でないと予選不可となる場面に注意。
組織変更(持分会社⇄株式会社)
・登記は効力要件ではないため、効力発生日以降に取締役会や互選で代表取締役を選定可能。
・計画書や定款で組織変更後の代表取締役をあらかじめ定めることもできる。
・代表取締役の就任日が登記記録上は読み取りづらくなる(効力発生日と申請日の間のどこか)点は実務上の留意点。
新設型組織再編(株式移転・新設分割)
・基本発想は通常の発起設立を置き換え
発起人 ≒ 株式移転完全子会社/新設分割会社。
・取締役会設置の有無で、互選か(みなし)発起人側の決定かをあてはめる。
・実務では、定款で設立時代表取締役を直接定める運用が安定。
理由:計画書作成時に定款が添付されるため、人事も同時確定が自然。
気持ち悪さの正体
通常設立では「発起人=将来の株主」が決定主体だが、新設型では子会社や分割会社が“親会社側”の代表者を決める構図になることがある。
もっとも、計画書・定款が株主総会等の承認を経る前提で組み上がるため、体系としては整合する。
共同株式移転の実務メモ(添付書類)
・複数の完全子会社が関与する場合、各社側の決定根拠(取締役会決議や取締役の過半数一致による決定)をそれぞれ添付する構成が想定される。
・「協議で決める」との説明があっても、結局は各子会社で同旨の意思決定書面を整えるのが現実的。
合同会社の職務執行者とのアナロジー
・職務執行者は“合同会社が”決めるのではなく、業務執行社員が“自分の職務執行者”を決定する建付け。
・したがって、定款に名前を置くよりも、業務執行機関の決定書面(例:取締役会議事録)が添付の核になる考え方が貫かれている。
・「重要な職務執行」に当たるため、業務執行機関の意思決定を要するという整理は、株式会社側の「新設時代表者の選定を業務執行機関決定とみる」実務感覚と通底する。
比較早見表
スキーム | 代表者の選定主体・方法(原則) | タイミング | 実務安定策 |
---|---|---|---|
通常の設立(取締役会設置) | 設立時取締役の互選 | 設立時 | 定款で直接定めるでも可 |
通常の設立(非設置) | 発起人の過半数一致 | 設立時 | 定款で互選方式に切替も可 |
特例有限→株式会社(商号変更) | 移行後定款に従う | 登記が効力要件 | 取締役会を設けるなら定款で代表者を定める |
組織変更 | 組織変更後定款に従う/計画で定め可 | 効力発生日以降で選定可 | 事前に計画・定款で固めると安全 |
新設型組織再編 | 通常設立の置換(互選/発起人相当) | 計画・定款確定と同歩 | 定款で代表者を直接定めるのが実務的 |
登記実務での注意
・効力発生日が休日の場合:実務は翌営業日申請が集中するため、決議日・就任承諾日・定款日の整合を早めに確定。
・添付の過不足
・設立時代表者を定款で定めたなら、その定款を主軸に。
・互選・発起人決定に依拠するなら、その決定書面が肝。
・「いつ誰が決めたか」が読み取れるよう、本文で明確に選定を宣言(資料の合綴だけでは弱い)。
本コラムのまとめ
・新設型組織再編の代表者選定は、通常設立の原則をベースに、計画・定款の同時確定という手続の性格を踏まえて定款で直接定めるのが最も安定。
・共同案件や合同会社の職務執行者のような「誰が意思決定主体か」が問われる場面では、業務執行機関の決定書面を確実に整える。
・迷ったら、定款で代表者を定める/定め方を明示する、添付は“本文で選定を宣言”を徹底――これが補正を避ける最短ルートです。
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本日は、新設型組織再編における「設立時代表取締役」の選定方法を整理いたしました。
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