遺言・相続・遺産承継

山林の相続登記、義務・手続・税金・いらない場合の出口戦略まで実務整理

結論(本コラムの要点)

相続登記は義務化:相続を知った日から3年以内に申請が必要。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象です。
山林特有の届出:相続により森林の土地の所有者になったら、90日以内に市町村へ「森林の土地の所有者届出」が必要(不届出は10万円以下の過料**)。
費用の柱相続登記の登録免許税は評価額×0.4%(土地・家屋とも)。未登記の旧相続をまとめて解消する場合に免税特例があるため該当可否を確認します(期限あり)。
測量は“原則必須”ではないが、境界不明・地積不整合の山林は売却・換価・国庫帰属のいずれでもネック。早期の境界確認・地積更正を“費用対効果で”検討します。
不要なら“法的な出口”を先に検討:①相続放棄(3か月以内)②売却・寄付・無償譲渡③相続土地国庫帰属制度(審査手数料14,000円+負担金。森林は面積に応じ算定)。

山林の相続登記とは(義務と窓口)

・亡くなった方名義の山林を相続人に名義変更する登記です。申請先は所在地を管轄する法務局。
義務化のポイント
 ・相続(遺言・遺産分割を含む)を知った日から3年以内に申請。
 ・期間内に分割がまとまらないときは、相続人申告登記等で期限管理。

必要書類(基本)
・登記申請書/相続関係説明図
・被相続人:出生〜死亡までの戸籍・除籍,住民票(除票)
・相続人:戸籍,住民票,遺産分割協議書(又は遺言書),印鑑証明
固定資産評価証明書(税額計算に使用)

登録免許税→固定資産税評価額×0.4%(相続)。
森林の届出は別ルート:相続で森林の土地を取得したら、90日以内に市町村へ届出。不届出・虚偽は10万円以下の過料。

山林の相続登記で“先に”気を付ける点

(1) 境界・地積の不一致
登記記録の地積が実測と合わない例が多いのが山林。隣地承諾・筆界特定・地積更正登記は、
・売却・分筆・太陽光設置
・相続土地国庫帰属制度の審査
に直結。登記原因と同時に動くとコストを抑えやすい。

(2) 長期未登記の“相続の連鎖”
何代も未処理だと相続人調査が重層化。近時は過去の未登記土地の相続登記に免税の特例(期限:令和9年3月31日まで)が整備されており、一気に解消できるケースも。該当可否を必ず確認。

(3) 売却・賃貸・伐採収益化の前提は“名義”
相続登記未了の山林は買い手が付かないのが通例。換価や賃貸、伐期材の売却を視野に入れるなら、名義整備→境界確定が先決。

「相続したくない/持ちたくない」場合の選択肢

A. 相続放棄(家庭裁判所)
3か月以内に手続。放棄すると一切の財産を承継しない扱い(山林だけ“外す”ことは不可)。

B. 売却・寄付・無償譲渡
森林組合・林業事業者・地元団体を含め広く当たるのが現実的。境界不明・進入路不備はディスカウント要因。

C. 相続土地国庫帰属制度(法務局)
相続した不要土地を審査のうえ国に帰属させる制度。
費用
審査手数料 14,000円/筆(申請時納付)。
負担金:原則20万円が基本だが、森林は面積に応じて算定(10年分の管理費相当)。計算は登記記録の地積が基準。
要件:境界不明、権利関係が複雑、他人の利用がある等は不承認になり得ます。
・まとめ:境界・地積の整理→申請が王道。負担金・期間は事前見積もりが安全です。

税金(相続税評価・登記税・取得税の取扱い)

(1) 相続税評価(山林)
種別により評価法が異なります。
・純山林/中間山林:倍率方式(固定資産評価額×国税庁倍率)。
・市街地山林:倍率方式または比準方式(宅地評価額−造成費)。

(2) 登録免許税(相続登記)
・評価額×0.4%(土地・家屋)。未登記の相続をまとめて解消する場合に免税の特例あり(期限:令和9年3月31日まで)。

(3) 不動産取得税・固定資産税
・相続による取得は不動産取得税は非課税(※一般論。取得原因に贈与等が混在しないか確認)。固定資産税は山林も対象で、毎年の負担見積りが必要です。

実務フロー(最短ルート)

1.資料収集:名寄帳・固定資産評価証明・公図・登記事項証明を取得
2.権利・境界の一次診断:隣接者・林道・水利・送電線などの負担関係をチェック
3.相続関係の確定:戸籍収集→相続関係説明図→遺産分割
4.登記申請:相続登記(必要に応じ地積更正/筆界特定を併走)
5.森林届出(90日内):市町村へ所有者届出を提出(相続時)。
6.出口戦略:活用(伐期・賃貸・発電)/売却・寄付/国庫帰属の可否判断

コスト・リスクを抑えるコツ

・期限管理:相続登記3年、森林届出90日。申告登記の活用で過料リスクを先に遮断。
・境界の早期確認:将来の売却・国庫帰属・分筆すべての“地雷”を回避。
・公的制度の活用:相続土地国庫帰属は費用・要件を先読み(登記地積で算定)。
・専門家の分業:司法書士(登記・期限管理)×土地家屋調査士(測量)×税理士(評価・相続税)。

よくある落とし穴

・「測量は必須」と誤解:登記自体は可能でも、隣地紛争・売却不成立の原因になりやすい。
・森林届出の失念:相続登記だけで満足し、90日届出を落とすケース。
・国庫帰属の費用感の誤認:森林の負担金は面積比例で増える(登記地積が基準)。


手続きのご依頼・ご相談

本日は、山林の相続登記、義務・手続・税金・いらない場合の出口戦略まで実務整理について解説いたしました。
会社法人登記(商業登記)、不動産登記に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。

本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

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