会社分割に伴う剰余金の配当決議、実務上の課題と論点整理
人的分割と剰余金の配当
人的分割では、対価を直接株主に交付するのではなく、分割会社がいったん対価を受け取り、剰余金の配当を通じて株主に交付する仕組みが採られています。
そのため、分割契約書には「剰余金の配当を行う」との記載を置き、実際の配当決議で詳細を定めることになります。決議内容は通常の期末配当と同じで、
・配当財産の種類と帳簿価額の総額
・株主への割当方法
・効力発生日(会社法454条)
が必要事項です。
特徴的なのは、分配可能額が不足していても配当できる点です。
債務超過会社でも、人的分割の手続の一環であれば剰余金の配当を行うことが可能です。
効力発生日の定め方
新設分割では効力発生日は登記の日(=登記申請日)となります。
したがって分割計画に日付を明示する必要はありません。
配当決議においては、具体的な日付を定めるよりも、
「分割計画書に基づく会社分割の効力発生日」
と条件付きで定める方法が実務上適切とされています。
帳簿価額の総額の扱い
承継純資産がマイナスの場合、帳簿価額をどう決めるかが問題になります。
ある事例では「株式の価額にマイナスはないためゼロで良い」との見解が示され、実際にゼロとして決議された例があります。
もっとも、完全に納得できる理屈が得られているわけではなく、実務家の間でも議論が残されています。
利益準備金の積立義務
通常の剰余金配当と同様、利益準備金の積立義務が問題となります。
人的分割の場合、分配可能額が不足しているケースが多いにもかかわらず、準備金の積立を要するのかという疑問が呈されています。
法律上は積立義務が当然に発生するとされるものの、実務上は処理に苦慮する場面が多いといえます。
配当可能額がある場合
配当可能額に問題がない会社であれば、会社分割に関係なく通常の剰余金配当決議を行うことも可能です。
この場合、契約書や計画書に記載を置かずに配当を実施できます。
ただし、この場合は債権者保護手続の対象者が異なり、同じ「会社財産の流出」であっても手続が異なる点に違和感を覚える実務家も少なくありません。
本コラムのまとめ
・人的分割に伴う剰余金配当は、分配可能額が不足していても可能。
・効力発生日は「分割計画に基づく効力発生日」と条件付きで決議するのが安全。
・帳簿価額はマイナスとするかゼロとするかで見解が分かれるが、ゼロとする取扱いが実務上存在。
・利益準備金の積立義務が生じるかは疑問が残り、処理に注意を要する。
・通常の配当決議を行う方法との手続上の差異にも留意が必要。
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本日は、会社分割に伴う剰余金の配当決議、実務上の課題と論点整理について解説いたしました。
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