生前贈与はいつ・誰に・どう使うと有効か?相続との違い、使いどころ、非課税特例と実務の落とし穴
生前贈与
生前贈与は「時期」と「相手」を自分で選べる能動的な承継手段です。
税制は暦年課税(年110万円控除)と相続時精算課税(令和6年以降は年110万円控除が新設)を軸に、教育・住宅・結婚子育て等の目的別の非課税特例で上乗せできます。
ただし生前贈与加算の「7年」拡大や、遺留分・特別受益など民法上の調整が関わるため、税務と私法を横断して設計することが重要です。
生前贈与と相続の違い(1分で把握)
観点 | 生前贈与 | 相続 |
---|---|---|
移転時期 | 生前に移転。時期を選べる | 死亡時に自動的に移転 |
受け手 | 自由に選べる(相続人以外も可) | 相続人中心(遺言で調整) |
税 | 贈与税(各種特例あり) | 相続税(基礎控除等あり) |
家族合意 | 事前説明・合意形成がしやすい | 死後に遺産分割協議 |
リスク | 遺留分や特別受益の問題、生活資金の過少化 | 遺産分割紛争、納税資金手当 |
生前贈与の使いどころ(ケース別)
・必要な時に渡す→住宅取得・教育・結婚子育てなどライフイベントに合わせて支援。目的別の非課税特例を併用しやすい。
・値上がり資産の早期移転→株式等は評価が低いうちに移すと、将来の相続税負担抑制に有効。
・事業承継→後継者へ株式を段階的に移す。家族への説明と遺留分配慮(代償金・生命保険等)を同時設計。
2つの基本制度を比較(暦年課税 vs 相続時精算課税)
制度 | 暦年課税 | 相続時精算課税(令和6年以降の主な論点) |
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年間の基礎控除 | 110万円 | 110万円が新設(R6以降の贈与が対象) (国税庁) |
仕組み | その年ごとに課税。超過額に贈与税 | 生前は累計2,500万円まで無税で移転可能だが、相続時に合算清算 |
相続時の扱い | 一部が7年遡って相続に加算(生前贈与加算) | 選択した分は原則合算(相続時に清算) |
向くケース | 少額を計画的に長期移転/受贈者複数 | 早めに大きく移したい/値上がり前の資産移転 |
乗り換え | ― | 選択後に暦年へ戻せない点に注意 |
注:相続時精算課税の年110万円控除導入は、令和6年1月1日以降の贈与から適用。
目的別の主な非課税特例(2025/9/3時点の制度枠)
目的 | 概要(主要条件の例) | 非課税枠・期限 |
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教育資金の一括贈与 | 直系尊属→30歳未満。塾等含む。未使用残は一定の場合に課税対象へ戻る | 上限1,500万円(学校)/500万円(学校外)、令和8年3月31日まで。 (国税庁) |
住宅取得等資金 | 直系尊属→住宅取得・増改築費。所得・面積等の要件あり | 省エネ等適合:1,000万円/その他:500万円、令和6/1/1〜令和8/12/31。 (国税庁) |
結婚・子育て資金 | 直系尊属→18〜50歳未満。所得要件等あり | 上限1,000万円(結婚は300万円まで)、令和7年3月31日まで。 (国税庁) |
※制度は改正・延長が生じます。利用前に最新の国税庁公表資料で金額・期限・対象費目を必ず確認してください。
注意すべき4点(実務の落とし穴)
1.生前贈与加算「7年」
令和5年度改正により、被相続人の死亡前7年以内の一定の贈与は相続税計算に加算。暦年贈与の計画は、加算対象の有無・範囲を前提に設計します。
国税庁
2.遺留分・家族合意
特定の相続人に偏る贈与は、遺留分侵害額請求リスク。事業承継等では代償金・受取人設定保険など併用し、説明記録(贈与の趣旨メモ等)を残すと紛争予防に有効。
3.特別受益・持戻しの視点
婚姻・生計の資本に当たる贈与などは、相続時に考慮される場合があります。対象認定・期間関係は事案ごとに差が出ます(民法上の評価が絡むため、条文の形式的比較だけで判断しない)。
4.生活資金の確保
贈与後の自分の老後資金・介護資金が不足しないよう、資金計画→贈与計画の順に作ること。相続時精算課税は戻せないため特に慎重に。
かんたん設計フロー(初回面談での進め方の例)
1.家族構成・資産内訳・キャッシュフロー(老後資金)を把握
2.値上がり資産・利用可能な非課税特例を抽出
3.「誰に」「何を」「いつ」のマトリクスを作成(合意形成の論点表)
4.暦年課税/相続時精算課税の併用・使い分けを設計(7年加算を前提に)
5.贈与契約書・受領書・資金移動エビデンスの整備、登記(不動産・株式)・名義変更
例・非課税特例の使い分けミニケース
・高校〜大学の教育費が嵩む孫へ → 教育資金一括贈与で一度に枠取(未使用残の戻りルールに注意)。
・子の新居購入を支援 → 住宅取得等資金非課税+自己資金を組み合わせ、登記持分と整合させる。
・近々の結婚出費・出産備え → 結婚・子育て資金非課税の対象費目に合致するか事前確認。
手続きのご依頼・ご相談
会社・不動産・自社株が絡む生前贈与は、登記と税務と家族合意をワンセットで進めるのが最短です。まずは現状ヒアリングから承ります。
ご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。