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会社設立時に取締役の任期を柔軟に定めるには?附則の活用と改選タイミングの整理法

設立手続きに潜む任期の落とし穴

機関設計と人事が未確定なまま始まる会社もある

組織再編の一環として、会社分割や新設会社の設立が急務となるケースでは、取締役人事や機関設計が固まらないまま会社を設立しなければならないことがあります。
特に、「新設分割を予定していたが、許認可の都合で『会社設立+吸収分割』に切り替えた」というスキーム変更は珍しくありません。

たとえば次のような事例です。

・分割会社Aの支店事業を子会社化するため、当初は新設分割を想定
・しかし、承継会社の事前許認可手続に「設立済みの法人格」が必要と判明
・結果として、まず新会社Bを設立 → 後日、吸収分割でBに事業を承継する形に変更

このような「とにかく先に会社を設立しなければならない」という状況下では、最終的な取締役の構成が未定であっても、とりあえず仮の人事で会社をスタートせざるを得ないことがあります。

しかし、ここで問題になるのが「設立時取締役の任期」です。
この任期を法定の2年(または10年)で定めてしまうと、たとえ仮に就任しただけの人でも、改選まで長期間その地位に残ることになってしまうのです。

そのような場合、定款に附則を設け、「設立時取締役の任期のみ短縮する」ことで、再編完了後の適切な時期に本来の人事体制へスムーズに移行するという手法が非常に有効です。

設立時のみ任期を短縮する附則の活用(1期で改選させる合理的な方法)

取締役の任期は、会社法上は原則として2年(非公開会社では最長10年まで伸長可)とされていますが、設立時取締役の任期だけを短縮することも可能です。
この場合、定款の本則では2年または10年と定めつつ、附則で「設立時の取締役に限り、任期を1期にする」とする条項を追加することで対応できます。

以下は、実際の附則条文例です。

「会社成立時に選任された取締役の任期は、第〇条の定めにかかわらず、選任後1年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。」

このように定めておけば、たとえば設立日が令和6年1月15日、決算月が1月末の場合、設立から半月程度で第1期が終了し、2~3月には定時株主総会が開催されることになります。
その総会で、実際の経営メンバーを改めて選任し直せばよいのです。

この方法のメリットは以下のとおりです。

メリット 内容
・ 仮就任の取締役を短期間で交代できる 任期満了による退任なので「辞任」を要せず、本人の意向と関係なく交代可能
・ 登記は通常通り「変更登記」で対応可 任期満了に伴う再任・新任として登記すればよく、手続が明快
・ 定款変更不要で人事の更新が可能 最初に附則を入れておけば、後は本則通りの任期に戻るためシンプル

特に、「後日フルメンバーで取締役会を設置予定」や「設立段階で仮の構成しか決まっていない」ケースでは、人事の柔軟性と法的安定性を両立できる極めて実用的な方法といえます。

意図どおりに改選時期をコントロールするための「6年任期」設計の落とし穴

附則で設立時取締役の任期を調整する方法としては、「短縮」だけでなく、「特定の年に改選したい」という意図から設立時のみ任期を延ばす(または特定年に合うよう調整する)という設計も考えられます。
実際にあった事例では、「設立は令和5年。5年ごとに改選したいので、次回は令和10年、次々回は令和15年に改選できるようにしたい」と希望された会社がありました。

その意向を踏まえて、任期を「5年」に設定しようとしたのですが──そこで問題が発覚します。

事業年度と任期条項のズレによる誤算

この会社は令和5年6月に設立し、決算月は9月でした。
つまり、第1期の事業年度は「令和5年6月〜令和5年9月」となり、第1期の定時株主総会は令和5年12月頃に開催されるのが通常です。

ここで「5年任期」とした場合、定款条項に従って数えると、

・第1期:令和5年12月定時総会
・第2期:令和6年
・第3期:令和7年
・第4期:令和8年
・第5期:令和9年
・第6期:令和10年9月終了 → 令和10年12月定時総会で任期満了

となり、設立から数えて6期目の定時総会で改選となってしまうのです。
つまり、「5年任期」のつもりで設計したのに、実際には6期経過してしまうというズレが生じる可能性があるということです。

解決策→附則で「初回のみ6年」と明記する

このような場合、附則に「会社成立時の取締役の任期は6年とする」と明記すれば、定時総会の開催タイミングを含めて、社内のスケジュールと整合させることができます。
設立時の任期だけを特別に延長し、その後は本則どおりの任期(例:5年)に戻すことも可能です。

このように、「見た目の年数」と「事業年度ベースの期数」は必ずしも一致しないため、改選時期に意図を持たせる場合には、事業年度との対応関係を正確に逆算する必要があるのです。

設立時のみ任期を調整する附則は実務的にどう位置づけられるか

会社設立時の取締役任期を調整する附則は、法的に特殊な制度ではありません。
あくまで定款の中で「一時的な任期設定の例外を置く」というだけの構成であり、会社法上も何ら問題はなく、実務的には非常に柔軟で使いやすい手段として定着しつつあります。

附則での任期調整が有効に機能するパターン

パターン 附則の役割
❶ 最終的な役員構成が未確定なまま設立する場合 一時的な人事のまま2年・10年任期とするのを避けられる
❷ 組織再編と同時に役員を入れ替える予定がある場合 分割・合併と定時総会を同期させるスケジュール調整が可能
❸ 次回改選を特定の年に合わせたい場合 「5年にしたつもりが6期目改選になる」ズレを防げる

とくに、機関設計の変更や役員交代を予定している組織再編案件では、「任期満了による退任」ができるか否かが登記上のスムーズさを大きく左右します。
辞任による退任は本人の意思が絡むためトラブルになりやすい一方、任期満了であれば確実に退任が成立し、再任や新任の登記も明快になります。

提案時の注意点と補足

・附則の記載は、定款本則との整合性を明記しておくことが重要です(例:「第◯条にかかわらず」)
・定款変更による削除や調整も可能なため、「実質的な交代がなければ附則を削除して任期を延長」という柔軟対応も可能です
・登録免許税の扱いも変わらず、一般的には(資本金1億円未満であれば)1万円(変更登記)で足りることが多い点も利点です

取締役任期の設計は一見地味な要素ですが、経営人事・組織再編・リスク管理を支える基盤的な論点です。
附則による一時的な任期調整は、設立時の人事や再編スケジュールと柔軟に整合させる有効なツールとして活用しましょう。

手続きのご依頼・ご相談

本日は、会社設立時に取締役の任期を柔軟に定めるには?附則の活用と改選タイミングの整理法について解説いたしました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。



本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

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