外国会社の公告と登記事項の整合性に注意すべき理由と住所・商号・公告方法など、補正事例から学ぶ実務の盲点
外国会社の公告制度と登記事項の関係
外国会社が日本で登記を行う際には、会社の性質・準拠法・営業所の有無に応じて、所定の登記事項を登録する必要があります。
その中でも見落とされがちなのが、公告方法に関する登記です。
外国会社であっても公告の方法は登記義務
現在の商業登記制度では、外国会社であっても、日本の株式会社等と同様に、「公告の方法」を登記事項として記録することが義務づけられています。
これは、たとえば「官報に掲載する」や「日刊新聞紙に掲載する」などの方法で、会社の重要事項(計算書類、代表者変更など)を外部に開示する手段として位置付けられています。
実務上、この公告方法は形式的な記載と考えられがちですが、公告の記載内容は登記事項と矛盾がないことが大前提です。
とくに、外国会社が「すべての日本における代表者の退任登記」(=実質的な営業所廃止)を行う際には、官報に事前の公告が必要となり、その公告文が登記事項と整合していない場合、登記官から補正または申請取下げを求められるリスクが生じます。
具体的には、公告に掲載された商号の一部に誤りがある(例:「ABC株式会社」→「株式会社ABC」)と、債権者保護手続が適切に履践されたと認められず、手続が無効とみなされる場合があるのです。
つまり、公告と登記は別々の制度に見えて、実務上は密接不可分であり、内容の正確性・一致性が求められるという点をまず押さえておく必要があります。
「公告の住所表記」はどこを基準にするのか?
外国会社が日本における代表者全員の退任登記を行う際には、官報公告が義務づけられますが、この公告文における会社の住所の記載方法も、実務上しばしば問題になります。
公告において住所を記載する場面では、以下のような選択肢があり得ます。
・日本における営業所の所在地(支店所在地に相当)
・日本における代表者の個人住所
・本国の本店所在地(外国住所)
このうち、一般に使用されるのは「日本における営業所の所在地」です。
これは、日本の登記簿において「本店に関する事項」として表示されている住所が、実際には本国ではなく日本国内の営業所所在地であるためです。
登記官や利害関係人(債権者など)が公告を確認した際、登記簿との照合がしやすいように、日本での営業拠点の住所が公告に記載される運用が定着しています。
登記と異なる住所を書いた場合のリスク
実務上問題となるのは、次のようなケースです。
・官報に掲載された住所が「代表者の個人住所」となっていた
・営業所を閉鎖した後、清算人の住所を記載した
・営業実体のない登記上の本店所在地(外国住所)を記載した
このような場合、登記官によっては「公告の対象が特定できない」「登記簿上の会社と異なる存在と解されるおそれがある」として、公告の有効性を否定される可能性があります。
とりわけ、公告を根拠として債権者保護手続が履践されたかどうかを審査する局面では、わずかな記載の差異が補正原因となることもあります。
事前の原稿チェックが不可欠
公告の住所記載に誤りがあると、再公告が必要となり、公告料・時間・登記スケジュールすべてに影響が生じます。
そのため、登記申請前に、公告原稿の住所が登記簿に記録された「日本における営業所所在地」と一致しているかどうかを事前に確認することが、極めて重要な実務対応となります。
外国会社の「公告方法」は登記事項―準拠法に基づく公告との関係に注意
外国会社が日本で営業活動を行う際には、商業登記規則により、日本国内における公告方法を登記事項として登録する必要があります。
これは、日本の株式会社と同様に、第三者に対する情報公開の手段として公告制度が位置づけられているためです。
公告方法としてよく用いられるのは、「官報に掲載する」または「日刊新聞紙に掲載する」などの方法ですが、外国会社の場合にはさらに複雑な構造が加わります。
準拠法における公告制度との二重構造
外国会社は本国の準拠法に基づいて組織されているため、本国で義務付けられている公告制度(株主への通知、貸借対照表の開示等)を別途有していることがあります。
これに対して、日本の登記制度は、「日本国内における公告の方法」を登記事項とし、その内容に基づいた公告実務を求めます。
過去には、準拠法によって公告義務があるにもかかわらず、日本においては「公告方法なし」として登記されたケースもあったそうです。
しかし現在では、登記実務上、「準拠法上公告義務がある場合には、日本においても公告方法を明示するべき」という運用が定着しつつあります。
公告方法未登記のリスク
公告方法が登記されていない場合、次のようなリスクが想定されます。
・貸借対照表等の公告義務があっても、日本で履践された形跡が登記簿に残らない
・すべての代表者退任時の官報公告について、どの方法が正当か登記簿上判別できない
・債権者保護手続で「公告をした事実はあるが、登記されていない方法であった」として無効扱いされるリスク
とくに、公告の手段が「官報」なのか「日刊新聞紙」なのかが明示されていない場合、債権者がアクセスしにくい媒体で公告がなされたとして補正を指摘される例もあります。
実務対応:公告方法は初回登記で必ず確認・登記する
外国会社の登記においては、営業所設置の際、準拠法上の公告義務を調査し、日本でも公告方法を登記しておくことが重要です。
すでに登記済の会社でも、必要に応じて「公告方法変更登記」を行うことで整合性を確保することが推奨されます。
公告・登記・実体のズレが補正や登記却下を招く―実務で陥りやすい落とし穴
外国会社の撤退登記や公告実務においては、公告内容と登記内容の整合性に加え、実際の営業実態や登記官の判断とのズレがトラブルの引き金となるケースが少なくありません。
たとえば、登記記録上は「すべての代表者が退任」しているにもかかわらず、実務上は清算手続や後続業務が日本国内の拠点で継続されていたといった状況が発生した場合、登記と実体の不一致として補正を指摘されることがあります。
清算手続中に起こる「住所の記載矛盾」
外国会社の撤退後、清算人を登記する際、登記申請書には清算人の個人住所を記載しなければなりません。
ところが、清算人が弁護士であり、選任書や就任承諾書に弁護士事務所の住所が記載されていた場合、登記簿に記録される住所との不一致が生じることになります。
このズレが原因で、登記官から補正を求められたり、「登記内容と公告上の記載が一致しない」と判断されて、債権者保護手続が無効とみなされる可能性もあります。
公告文の軽視が命取りに
公告原稿の誤記(たとえば社名の一部が脱落していた、公告日が登記申請と整合しないなど)は、単なる形式的ミスでは済まされません。
公告そのものの効力が否定されれば、債権者保護手続が存在しなかったとみなされ、登記の前提が崩壊することになります。
結果として、登記申請を取り下げ、再度公告・催告の手続きをやり直す必要に迫られるおそれもあります。
登記官は「整合性」を見る
登記官が重視するのは、「登記簿に記録されている情報と、公告・添付書類が一貫しているかどうか」です。
この点で矛盾があると判断されれば、たとえ内容が正当であっても補正・却下・再公告という手続的なハードルを回避することはできません。
公告実務は“表向き”の処理ではない
公告は単なる形式処理ではなく、登記の一部を構成する重要な手続です。
外国会社が撤退する際には、登記内容・公告記載・実務上の活動拠点・管轄の関係性をすべて整合させたうえで、正確かつ齟齬のない書面構成を行う必要があります。
「細部の記載ミスが全体の無効につながる」これが、外国会社の公告と登記が交差する場面における最大の実務リスクです。
手続きのご依頼・ご相談
本日は、外国会社の公告と登記事項の整合性に注意すべき理由と住所・商号・公告方法など、補正事例から学ぶ実務の盲点について解説いたしました。
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