定時株主総会の開催時期とその法的位置づけ「3か月以内」は義務なのか?司法書士が解説
3か月ルールの明文規定はない
定時株主総会の開催時期について、「事業年度終了後3か月以内に開催しなければならない」というのは、実務上広く共有されている常識です。しかし、会社法にはそのような明文規定はありません。
本稿では、まずこの「3か月ルール」の背景にある法的根拠や税務との関係を整理しつつ、定時株主総会がいつまでに開催されなければならないのか、そして、それが遅れた場合にどのような影響があるのかを解説します。
なお、2020年以降の新型コロナウイルス感染症拡大により、定時株主総会の延期や柔軟な開催が議論されたことは記憶に新しいところですが、現在は平時に戻りつつあります。過去の混乱を踏まえ、いま改めて原則と実務のバランスを確認することは重要です。
会社法に「開催時期」の明文規定はない
会社法第296条第1項は次のように定めています。
「定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない。」
この「一定の時期」とは何かについて、法律上は明確な期限がありません。3か月以内とはどこにも書かれておらず、具体的な時期は各社の定款に委ねられています。
つまり、法的には「3か月以内」は義務ではなく、あくまで定款または実務慣行に基づくものであるというのが基本的な理解です。
「3か月ルール」の実務的根拠
(1)基準日制度との関係(会社法第124条)
会社法第124条では、株主総会における議決権行使や剰余金配当の基準日を設定する制度が定められています。
多くの会社では、基準日を事業年度末日(例:3月31日)とし、基準日株主に議決権行使権や配当請求権を認めます。
そして、基準日から3か月を超えると、実務上その効力が不明確となるため、「3か月以内に株主総会を開催する必要がある」とされているのです。
(2)税務申告との関係
法人税の確定申告は、原則として事業年度終了後2か月以内に行う必要があります。ただし、延長申請を行えば、3か月以内の提出も可能です。
株主総会において計算書類(貸借対照表・損益計算書等)が承認されないと、申告書に添付すべき書類が整いません。このため、株主総会を事業年度終了後3か月以内に開催するのが、税務申告上の必要性ともなっています。
定款で定める開催時期と遅延の影響
実務上、多くの会社が定款で「定時株主総会は、事業年度終了後3か月以内に招集する」と定めています。
このような定めがある場合に、もし3か月を超えて定時株主総会を開催した場合、その株主総会は「定款違反」となる可能性があります。
もっとも、会社法上は「招集手続の瑕疵」があっても、株主総会の決議が覆されるのは、会社法831条の「重大な手続違反」である必要があるため、直ちに株主総会の無効原因になるわけではありません。
ただし、次のような実務上の支障が出ることには注意が必要です。
・取締役等の任期満了とその後任者選任のズレ
・会計監査人の「自動再任」制度が適用されないケース
・登記手続での申請遅延や添付書類への影響
実務の現場から:コロナ禍における混乱と対応
2020年以降のコロナ禍では、多くの会社が定時株主総会の開催に苦慮しました。
・在宅勤務体制で書類の回付が遅延
・会計監査人の監査スケジュールが未確定
・会場開催困難による延期希望
これを受けて法務省は「定時株主総会の開催時期を柔軟に解釈して差し支えない」とするQ&Aを公表し(令和2年4月13日付)、たとえ定款で「3か月以内」と定めていても、有事により開催が遅れたことが違法とはならないとの見解を示しました。
この経験を経て、「やむを得ない事情」がある場合には、形式的な遅延よりも実態を重視する運用が一部容認されたとも言えます。
手続きのご依頼・ご相談
現在はコロナ禍のような「有事」ではなく、平時の企業運営が求められています。
したがって、定款の開催時期規定や基準日制度、税務対応などを踏まえ、「3か月以内に定時株主総会を開催する」実務運用が改めて重要性を増しています。
しかし、やむを得ず遅延した場合にどうするか──その対処法や、継続会・別個開催の取扱い、登記上の影響については、次回に詳しく解説します。
【次回(第2話)予告】
定時株主総会が開催できないとき、どう対応する?──継続会、遅延開催、別個開催の法的整理と登記実務