相続、遺産承継業務

債権者代位による相続登記を司法書士が解説

相続人以外が登記をする背景と正しい対処法を司法書士が解説

「知らない間に、亡くなった親の不動産が勝手に登記されていた」そんなケースに直面したことはありませんか?
このような事態の多くは「債権者代位」によって行われた相続登記に起因します。
本来は相続人が行うべき不動産の名義変更を、債権者などの第三者が代わって行うこの手続きには、民法上の根拠があり、合法的に成立する場合があります。

本コラムでは、その仕組みと実務上の影響、そして相続人が取るべき対応策について、司法書士が詳しく解説します。

債権者代位による相続登記とは?

債権者代位権とは?
債権者代位権とは、民法第423条に定められた制度です。
これは、債務者(亡くなった人)が自身の権利を行使しないことで債権の回収に支障が生じるとき、債権者が代わってその権利を行使できるというものです。
たとえば、亡くなった人が不動産を所有していたが、相続人が相続登記をしないままでいると、差押えや競売ができず、債権回収が滞ります。このような場合に、債権者が相続登記を代位して行うのが「債権者代位による相続登記」です。

どんなときに「勝手に登記」されるのか?

以下のような場合に、債権者による代位登記が実行されることがあります。

主なケース 説明
住宅ローンの残債がある 団信が未適用でローンが残ったままの場合、金融機関が差押えのため代位登記を実行
税金の滞納がある 固定資産税や住民税等の滞納により、自治体が滞納処分として代位登記を行う
不動産の売買が未登記 被相続人が売却契約を結んでいたが登記未了のとき、買主が登記請求権に基づき登記を代位実行


債権者代位による相続登記の要件

債権者が代位権を行使するには、以下の要件を満たす必要があります(民法423条)。

・債権者の債権が履行期にあること
・債務者が無資力であること
・債務者が自らその権利を行使していないこと

なお、登記請求権や金銭債権が対象となる場合、②の「無資力性」は不要とされています(判例上の整理あり)。

登記された相続人への通知と注意点

代位登記がなされると、名義変更された相続人には「登記完了通知書」が送付されますが、通常の相続登記のような「登記識別情報通知書」は発行されません。また、相続人が複数いる場合でも、通知は代表者1名のみに届くことがあります。
通知を受け取った相続人は、放置すると差押え・競売が進行するおそれがあるため、速やかに対応が必要です。

相続放棄していた場合の対処法は?

登記がなされた後、すでに相続放棄をしていた、またはこれから放棄しようと考えている場合、状況に応じた対応が求められます。

放棄の時期 対応方法
代位登記の前に放棄していた 更正登記や抹消登記により修正可能(債権者の承諾が必要)
代位登記の後に放棄した 所有権の移転登記や抹消登記など(承諾不要な場合あり)


実務上のポイント|相続放棄・代位登記後の登記対応

・相続放棄した事実を証明する「相続放棄申述受理証明書」を取得
・遺産分割協議書の作成(必要に応じて)
・登記申請書の作成および法務局への提出
・司法書士の関与が必要な場合あり(特に登記識別情報がない場合)

登記修正にかかる費用と期間の目安

相続放棄の申述…1人あたり800円+切手代
登記手続報酬(司法書士)…10万〜20万円前後
登録免許税 登記の種類により変動(非課税の可能性もあり)

登記の正確な内容・放棄者の有無に応じて必要な費用は異なるため、事前相談が推奨されます。

通知が届いたらすぐ専門家へ相談を

債権者による代位登記は、法律に基づいて正当になされるものである反面、相続人にとっては突然の通知となるケースが大半です。登記がなされたからといって即競売が実行されるわけではありませんが、迅速な判断と対応が求められます。
放棄の意思がある場合、または債務も含めて財産を取得したい場合、いずれにせよ専門家の関与が不可欠です。登記修正・放棄手続・差押え対応のいずれも、複雑な判断と書類整備が必要となるため、まずはお近くの司法書士にご相談ください。
不動産登記・会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。



本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

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