株式交換

簡易株式交換と会社法796条3項の公告を解説、事後的に簡易株式交換の要件を満たさなくなった場合

簡易株式交換とは?

組織再編において「株式交換」は、会社を100%子会社化する手続きとして広く利用されています。
その際、会社法796条1項では、一定の条件を満たせば「簡易株式交換」として株主総会の承認を不要とすることができます。

簡易株式交換で進めていたが事後的に要件を満たさなくなった場合

では、手続きの途中で「簡易株式交換の要件を満たさなくなった場合」はどうなるでしょうか?
当初、簡易株式交換の適用を前提として手続きを進めていた会社が、後になって要件を満たさなくなった場合、株主総会の承認は必ず必要になるのでしょうか?

この点について、会社法796条3項が重要な役割を果たします。

会社法796条3項のルール

簡単に言うと、次のようなルールになっています。

・ 最初に簡易株式交換の要件を満たしていれば、手続きの途中で満たさなくなっても、すぐに株主総会が必要になるわけではない。
・ 会社は、会社法797条3項の「反対株主への通知」または4項の「公告」を行う必要がある。
・ その後、2週間以内に反対株主がいなければ、株主総会の承認なしでそのまま株式交換を実行できる。
・ 逆に、反対株主が出た場合は、株主総会の承認が必須となる。


具体例で考える

ケース1:反対株主がいない → 株主総会の承認不要(そのまま進められる)
1.会社A(親会社)が会社B(子会社)と株式交換をする計画
2.当初は簡易株式交換(796条1項)を適用予定だった(=株主総会の承認不要)
3.手続き途中で、親会社の財務状況が変わり、簡易株式交換の要件を満たさなくなった(=本来なら株主総会が必要な状況)
4.会社Aは797条3項の通知または4項の公告を行う
5.2週間待ったが、反対株主は誰もいなかった
6.株主総会の承認なしで、そのまま株式交換を実行できる!

ケース2:反対株主が出た → 株主総会の承認が必要になる
1.会社Aは当初、簡易株式交換の適用を予定(株主総会の承認不要)
2.途中で簡易株式交換の要件を満たさなくなった(本来なら株主総会が必要)
3.会社Aは797条3項の通知または4項の公告を実施
4.2週間以内に反対株主が出た!
この時点で、株主総会の承認が必須になる!(簡易株式交換としては進められない)

なぜこのルールがあるのか?

会社法は「株主の意見」を重視する考え方をとっているため、「もし株主が特に反対しないなら、そのまま進めてもいいですよ」という柔軟なルールを採用しています。
つまり、
・ 簡易株式交換の要件を満たさなくなった時点では、原則として株主総会の承認が必要
・ ただし、会社が797条3項の「通知」または4項の「公告」を行い、2週間以内に反対株主がいなければ、そのまま進めることができる
・ 逆に、反対株主が出たら、その時点で株主総会の承認が必須になる


差止請求のリスクと公告の実務

会社法796条3項では、簡易株式交換の要件を満たさなくなった場合に限り、公告が必要となります。
しかし、簡易株式交換が適用されるか微妙なケースで、公告をしていなかった場合、株主からの差止請求によって株式交換が阻止される可能性があります。このリスクを回避するため、法律上の規定がなくても、企業が自主的に公告を行うケースがあります。

本コラムのまとめ

・ 簡易株式交換の要件を満たさなくなっても、反対株主がいなければ、そのまま進められる(株主総会の決議は不要)
・ 反対株主がいた場合は、株主総会の承認が必須になる(簡易株式交換としては進められない)
・ 797条3項・4項の「通知・公告を行って株主の意思を確認する」プロセスがあるからこそ、株主総会の承認を省略できる可能性がある。

手続きのご依頼・ご相談

株主総会の承認が不要だったはずの「簡易株式交換」が、途中で条件を満たさなくなった場合にどう対応するか? という論点について解説しました。
会社法796条3項と797条3項・4項の関係を理解すれば、適切な手続きを選択することができます。実務上も重要なポイントとなります。
簡易株式交換(組織再編等)、会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。



本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

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