更正登記をどう直す?どこまで直す?「錯誤」「遺漏」「抹消」の線引きと、現に効力なしの扱い
錯誤・更正登記
今日は、更正登記の実務を、実際に起きがちなシナリオで整理します。
・どこからが錯誤更正(一部誤り)で、どこからが遺漏更正(一部漏れ)か
・抹消→回復→やり直しが要る場面はどれか
・「現に効力を有しない事項」は更正不可?という登記所の運用ブレにどう向き合うか
結論から言うと、“何を守りたいか(履歴/簡明さ/スピード)”で処理方針は分かれる。
そのうえで法務局との相談設計(根拠づけ・上申書の筋)を先に作っておくのが、最短で補正を避けるコツです。
錯誤・遺漏・抹消の使い分け
・錯誤更正:登記すべき事項の一部が誤り
例)役員氏名の一字違い、株式分割の効力日の誤記 など
・遺漏更正:登記すべき事項の一部が漏れ
例)同一登記事項の一内容を落とした(代表者の住所だけ漏れ 等)
・抹消登記(+回復):全部が誤り、または前段を一旦消して筋を立て直す必要がある場合
例)効力未発生のまま登記してしまった、誤った前提に続く後続登記が積み上がっている など
よくある誤解
取締役の一人の就任登記が漏れていた→変更登記(更正ではない)。
ケース別の攻略
ケースA:株式分割の効力日を誤記、のちに増資が続いている
・登記所の運用A:「現に効力を有しない登記事項は更正不可」→更正拒否のリスク
・実務選択肢は二つ
1.前段まで抹消→回復→正しい順でやり直し(履歴整合を最優先)
2.現に効力のある部分のみ更正(現在の姿を合わせる/履歴の誤りは残る)
判断軸
・IR・開示資料・第三者対抗の観点から、履歴の整合性を重視するなら①。
・スピード重視・取引影響最小化なら②。
・どちらを選んでも、上申書で「誤りの所在」「訂正手順」「現状の効力」を明示し、審査の論点を先取りしておくと補正が減ります。
ケースB:外国会社の宣誓供述書と訳文の食い違い
・訳文のみ誤り
・添付:上申書(訳誤りの経緯)+当時の宣誓供述書原本(又は原本証明付写し)+正訳
・登記:更正で可
・資本金・発行済株式総数などコア項目の誤りが連鎖している場合
・最初の誤り以前まで抹消→回復→再登記 も選択肢。
・もしくは現効分のみ更正。双方許容の例あり(管轄相談で宣誓供述の正誤表を先出し)。
ケースC:代表取締役の就任前に辞任のような物理的矛盾
・職権更正は期待しない(オンライン以降、原則困難)。
・申請人側の錯誤であれば更正登記を基本に、上申書で矛盾の解消ロジック(単純誤記)を明確に。
・受付前に気づけば訂正申請で差替え、受付後は早期の相談で補正誘導を受ける。
「現に効力を有しない事項は更正不可」問題への向き合い方
・実務では、現効分のみ更正も、一連抹消→回復→やり直しも、どちらも通った例がある(特に外国会社)。
・ポイントは、登記の利益(だれのどの法的利益を守るか)と審査の負担のバランス。
・履歴の公信性を重視するならフルやり直し、簡明性と処理負担を重視するなら現効のみ。
・いずれの選択でも、上申書に以下を盛り込む
1.誤りの初発箇所・原因(添付のどれに起因するか)
2.現に効力を有する/有しない部分の区分
3.是正の手順(抹消→回復→再登記 or 現効のみ)
4.第三者への影響がないことの説明(または最小化策)
添付と書きぶり
更正を証する書面(上申書の骨子)
・表題:更正登記申請に関する上申書
・1 申請人・会社表示
・2 誤りの内容(登記簿記載/原因日付/件名)
・3 発見の経緯(事業報告・監査・契約実務 等)
・4 是正方法(案①現効のみ更正/案②抹消→回復→再登記)選択理由
・5 第三者影響の有無と対処
・6 添付一覧(必要に応じ宣誓供述書、正誤表、決議議事録、計算根拠 等)
外国会社は宣誓供述書(正誤表)を軸に。日本法人は議事録・証憑で固めます。
実務の結論(方針の選び方)
履歴の正しさを最優先
→ 抹消→回復→再登記。登記簿は複雑になるが、前後の整合性が明確。
処理の簡潔さ・スピード優先
→ 現効部分のみ更正。登記簿はすっきり、ただし過去の誤りは残る。
どちらでも、管轄と事前協議が重要となります。
テンプレ上申書と想定Q&Aを持参して相談に入ると、補正の往復を激減できます。
本コラムのまとめ
・更正登記は型の理解+管轄の運用の二段構え。
・錯誤/遺漏/抹消の線引きを胸に、履歴を守るのか、簡潔さを取るのかを当事者と合意してから動く。
・そして上申書の設計こそが、補正と議論を最短距離にしてくれます。
できれば二度と会いたくない手続——それが更正登記。
それでも会ったら、「どこまで直すか」を先に決めてから、最短ルートで終わらせましょう。
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本日は、更正登記をどう直す?どこまで直す?「錯誤」「遺漏」「抹消」の線引きと、現に効力なしの扱いについて解説しました。
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