登記申請手続(各種)

取締役会廃止とついで登記は本当に一括申請が必須なのか、取締役会廃止と新株予約権の関係が絡むケース

取締役会廃止と他の登記申請

本日は、「取締役会を廃止するときに、他の登記を一緒に申請しなければならないのか?」
というテーマについて解説します。
会社法上、登記を同時に行わなければならない(いわゆる必要的一括申請)のは、監査役の退任や取締役会の設置など一部のケースに限られます。

ところが、「取締役会を廃止するとき」には、定款の中に登場する「取締役会」という文言や、新株予約権・株式譲渡制限などの定款条項にも影響が及ぶため、どこまで一括申請が必要なのかを誤解しやすいのです。

特に今回は、取締役会を廃止する会社が、すでに新株予約権を発行し、行使期間中だったという実例をもとに、
・一括申請の要否(取締役会廃止×株式譲渡承認機関・解散×清算人)
・新株予約権に「取締役会」条項がある場合の扱い
・新株予約権の「放棄」と「消滅」の登記原因と添付書類の整理
という3点を中心に見ていきます。

一括申請「義務」の線引き

行為の組合せ 一括申請の義務 備考
取締役会の廃止株式譲渡承認機関の変更 義務なし 一括が望ましいが、却下まではされない。
解散清算人選任(就任) 義務なし 実務上は一括が一般的。先行して「解散のみ」申請する場合は、申請人を代表清算人とし、資格証明書を添付(商登法71条3項)。

つまり、「取締役会を廃止するなら株式譲渡制限の承認機関を変更しなければならない」というのは、理想的な同時変更ではあっても“必須”ではないということです。

新株予約権の登記事項に「取締役会」条項があるとき

取締役会を廃止すると、定款中だけでなく、新株予約権の登記事項に含まれる「取締役会の決議」文言も整合性が取れなくなります。

法務局の見解(連載記載)では、
・実質的には新株予約権の内容を変更する必要がある。
・変更登記を一括申請するのが望ましい。
・ただし、一括しないことを理由に却下はできない。
・「取締役会決議→株主総会決議」などへ改める場合は、新株予約権者に不利と判断され得るため、全員の同意が必要。

したがって、新株予約権の内容変更を伴う登記は「望ましい一括」であっても、「義務的一括」ではないと整理されています。

放棄か消滅か登記原因と添付の落とし穴

(1)「放棄」原因で補正を受けることがある
過去の経験として、「新株予約権放棄」を登記原因にすると「放棄ではなく消滅を原因にしてください」と補正されることがありました。
理由は、放棄によって新株予約権が消滅するという法的効果を重視するためで、現在は「消滅」原因で申請するのが一般的とされています。

(2)書面が弱い場合の補強策
会社側に残っていたのは、新株予約権者からの簡単な確認書だけ。
「私は貴社新株予約権を放棄したことを確認します。」
これだけでは、
・全員分か不明、
・どの新株予約権を放棄したか特定できず、
・放棄日も曖昧。
→ そこで、割当契約書を添付して補強。
割当契約書には新株予約権の個数や譲渡禁止条項が明記されており、
「発行時の割当=現保有者=放棄者」と特定できるようになります。

結果、登記原因「消滅」+委任状+割当契約書+確認書で受理され、照会もなく完了しています。

実務フローのまとめ

1.定款変更で取締役会を廃止。
2.新株予約権の登記事項に「取締役会決議」文言が残るため、一括変更が望ましい旨を説明。
3.実際には、新株予約権は既に放棄済(今回の事案の場合)。
4.簡易な確認書しかないため、割当契約書を添付して補強。
5.登記原因を「消滅」とし、取締役会廃止+新株予約権抹消を一括申請。
6.法務局からの補正・照会なく完了。

東京法務局はこの点の判断が柔軟で、補足書類の整備さえあればスムーズに受理される実例です。

実務上のポイント整理

・一括義務の有無を正確に見極める。
 ・廃止×承認機関=義務なし
 ・解散×清算人=義務なし
・新株予約権の条項変更は“望ましい一括”にとどまる。
・登記原因は「消滅」が無難。
・放棄書面が弱いときは割当契約書で補強
(対象・全員・日付を明確に)。
・一括せず段階的に進める場合は、添付と申請人の整合性を確保。

本コラムのまとめ

今回のように、取締役会廃止と新株予約権の関係が絡むケースでは、
「どこまでを一括で申請すべきか」「どんな登記原因を使うべきか」で判断が割れやすい部分です。

結論としては、
・取締役会廃止と株式譲渡承認機関の変更は一括義務なし。
・新株予約権の内容変更は望ましい一括だが、必須ではない。
・登記原因は“放棄”ではなく“消滅”が安全。

これらを押さえておけば、補正や却下を防ぎつつ、実務的にも無理のない登記が可能になります。

手続きのご依頼・ご相談

本日は、取締役会廃止とついで登記は本当に一括申請が必須なのかについて解説しました。
会や法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。

本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

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