株主総会

定時株主総会と種類株主総会を同日に開催する際の順序と登記実務~役員改選・計算書類の承認・議決権の配分が複雑に絡むとき~

種類株主総会が必要になるケースとは?

種類株式制度を採用する会社においては、通常の株主総会に加えて種類株主総会の開催が求められる場面があります。
特にその傾向が強いのは、以下のような企業構造です。

・外資系企業と日本法人の合弁会社
・複数の商社・事業会社による出資構成
・取締役の選解任や計算書類の承認に関する特殊な権限を持つ種類株式

たとえば、以下のような種類株式を発行しているケースが該当します。

種類 株主権の内容
A種類株式 取締役●名、監査役●名の選任権/計算書類の承認権
B種類株式 取締役●名の選任権/一定条件下でA株への取得請求権

このような種類株式は、登記上も、議決権行使・役員選任の流れにおいても特別な注意が必要です。

種類株主総会が必要となる具体的場面

1年目の定時株主総会(=会社法施行前の旧法下では任期満了が発生)のタイミングにおいて、

・A種株主総会の承認がなければ計算書類は確定しない
・取締役・監査役の選任は種類株主総会ごとに行われる
・しかし役員の任期満了は「定時株主総会の終結時」とされるのが一般的

という事情が重なると、総会の「順番」によって登記・議事録・出席取締役の正当性が左右されるため、綿密な設計が必要になります。

総会開催の“順番”が変える5つの論点

種類株式を発行している会社が、定時株主総会と種類株主総会(以下「種総会」)を同日に開催する場合、開催の順番次第で、役員の任期・出席義務・登記の根拠に影響が生じます。以下に主要な論点を5つ整理します。

論点①:役員任期満了の時点と選任時点のズレ

・原則として「役員の任期満了=定時株主総会の終結時」
・ところが、役員の選任はA種・B種の各株主総会で決議される
・この結果、「選任された株主総会≠任期満了した株主総会」となる可能性があり、不自然さが残る

論点②:計算書類の承認と効力発生のタイミング

・定款や種類株式の内容によっては、A種株主総会での承認がなければ、計算書類は確定しない設計になっていることがある
・すると、定時株主総会で承認された計算書類が“仮状態”となり、A種株主総会前に定時総会を終結させてよいのか?という疑問が生じる

論点③:議事の進行が極端に不自然にならないか?

・A種株主総会を先に開催すると、「事業報告・監査報告なしで計算書類を承認」することになり、議事の構成として不自然
・逆に、定時株主総会後にA種株主総会を置くと、今度は②の問題が残る

論点④:重任として登記できるか?

・例えば定時株主総会終結後に種総会で再任された場合、「重任ではなく、新任」と解釈されるおそれがある
・実務上は、定時株主総会と種総会を“同日中”に開催し、就任日が一致すれば“重任”扱いでよいという見解が多いが、登記所によって見解が異なる場合もある

論点⑤:開催順によって出席取締役が変わる可能性

・A種とB種で異なる取締役を選任する構成の場合、「どの取締役がどの総会に出席すべきか」が変動する
・改選前の役員全員を出席対象とするのが保守的かつ一貫性のある運用

パズルのような総会順序の最適解

前節の5つの論点を踏まえ、実務上はどのように総会の順序を設計すべきでしょうか。
筆者が実際に提案・採用された順序は、以下のような“5段構え”の手順でした。

提案された開催順序(実例)

1.B種類株主総会
 → B種株主による取締役選任

2.定時株主総会(前半)
 → 事業報告・監査報告・計算書類承認の議案前まで進行

3.A種類株主総会
 → A種株主による計算書類承認および役員選任

4.定時株主総会(後半・再開)
 → 残りの議案(剰余金処分案等)を決議して終結

5.登記申請
 → 重任扱いにより、退任・就任日を同日付で統一

この順序のメリット

・出席義務者の特定が明確(改選前の役員が全会に出席すれば整合性あり)
・A種の計算書類承認が“後出し”でも議事進行に違和感なし
・全会を同日中に開催することで“重任”として扱える
・登記所からも実務的に容認されやすい構成

ただし現実には…
この順序は理論的に“理想解”ではありますが、会議体を一時休憩させる構成や、招集通知の文案調整など、準備段階での配慮と理解が不可欠です。
そのため、次年度以降はよりシンプルにするため、「定時→A種→B種」のオーソドックスな順序に切り替えたという運用変更も紹介されていました。これは「登記と手続に問題がなければ“自然な順番”でよい」という現場判断によるものです。

実務上の留意点と司法書士の対応ポイント

定時株主総会と種類株主総会を同日に開催する際には、単なる議事構成にとどまらず、手続の正当性・登記の確実性・関係者の納得性すべてを満たす必要があります。
そのため、司法書士がかかわる場面では、以下のようなポイントに特に注意を払うべきです。

① 「重任」として登記できる条件を確保

・定時株主総会と種株主総会の開催日を一致させる(=同日)
・就任日は「定時株主総会終結日」に統一し、就任承諾書の日付や議事録記載に注意
・登記所によっては「当日開催」であっても“再任扱い(新任)”を求めるケースもあるため、事前の照会が望ましい

② 出席すべき役員の特定は“改選前基準”で統一する

・総会開催順序によっては、出席すべき取締役のメンバーが変わってしまう
原則として、すべての株主総会には改選前の役員全員が出席しておく方が安全
・特に種株主総会議事録の出席者欄の記載に注意

③ 種類株式の内容は「読み込み」だけでなく「議事運営」と結びつけて理解する

・拒否権条項の意味(停止条件 vs. 解除条件)を正しく捉える
・「種株主の承認があるまで定時総会終結できない」という誤解を避ける
事業報告・監査報告を聞いた上で判断できるよう、種総会はなるべく後に設定

④ 合弁契約・株主間契約との整合にも配慮する

・議決権配分や指名権に関する規定が、定款・登記・実運用とズレていないか要確認
・「種類株式で対応したから契約は要らない」ではなく、両者で補完的に設計されているかを検証

手続きのご依頼・ご相談

種類株主総会が関わるケースは、形式上は会社法上の「定型」ですが、実務では一社一社、株式構成・定款・契約内容・人間関係に応じて設計が異なります。
「種類株式の活用=定款の工夫で自己解決せよ」という側面もありますが、それを現場で安全に運用できるよう支えるのが司法書士の役割です。

本日は、定時株主総会と種類株主総会を同日に開催する際の順序と登記実務として、役員改選・計算書類の承認・議決権の配分が複雑に絡むときを中心にご紹介いたしました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。



本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

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