株主総会

株主総会の書面決議とは?活用条件・書式・注意点を司法書士が解説

株主総会書面決議

会社法上、原則として株主総会は「開催」されるべきものですが、株主が少数である中小企業では、毎回正式な総会を開くのは現実的ではありません。
そこで活用されるのが「書面決議(みなし決議)」という制度です。

書面決議は、株主全員が同意すれば、株主総会を実際に開かずに決議を成立させられる方法です。
非常に便利な制度でありながら、使い方を誤ると決議が無効とされるリスクもあるため、正確な理解が不可欠です。

本稿では、司法書士の実務経験をふまえ、

・書面決議の要件・注意点
・同意書の作成例や登記への影響
・書面決議が適さないケース

などをわかりやすく整理して解説します。

書面決議とは?株主総会とどう違うのか

書面決議とは、会社法第319条に規定された制度で、
株主総会の開催を省略し、書面による全員の同意をもって決議を成立させる方法です。

通常の株主総会では、

・招集通知の送付
・開催日時・場所の設定
・議長・議決の成立確認

などの手続が必要ですが、書面決議ではそれらをすべて省略できます。

ポイントは「株主全員の同意」
会社法319条第1項では、

株主全員が同意すれば、株主総会の決議があったものとみなす
と定められています。

つまり、たった1人でも同意しない株主がいれば、この制度は使えません。
出席の可否や招集義務の有無ではなく、「同意が揃っていること」が唯一の条件です。

書面決議が有効になるための要件とは?

書面決議は、実際に株主総会を開かずに意思決定ができる便利な制度ですが、有効に成立するためには、厳格な条件を満たす必要があります。

特に注意すべきなのは以下の3点です。

① 株主全員の「同意」が必要(持株数ではない)

書面決議が成立するためには、会社法第319条第1項に基づき、議決権の有無にかかわらず、すべての株主の同意が必要です。

・持株比率が高い株主だけの合意ではNG
・名義株主であっても1人でも同意しなければ成立しない
・株主が行方不明などで意思表示できない場合もNG(不成立)

② 同意の「方式」に制限はないが、証拠性が重要

法律上は、同意の方式に特段の定めはなく、口頭や電話でも形式上は成立します。
しかし、実務では「書面(紙またはPDF)による同意書の取得」が必須とされています。

【よくある同意書の形式】
・書面タイトル:「株主全員同意書」「株主総会決議省略書」など
・決議事項の明記(例:定款変更・取締役選任など)
・株主全員の署名または記名押印(法人の場合は社印)

③ 同意の「時期」も揃っている必要がある?

裁判例上、「すべての株主の意思が同一の時点で集まっている必要はない」が、
後日形式を整える「事後的な追認」では、意思表示があった時期を特定できるよう記録しておくことが推奨されます。

そのため実務では、同意書の日付やタイムスタンプを明示しておくと安全です。

補足:株主リストの整合性にも注意

書面決議を行う場合も、役員選任や定款変更など登記事項に関係する場合には、株主リストの提出が必要です。
このとき、同意した株主の記載と一致していないと、登記審査で補正となるケースがあります。

書面決議の書式と登記申請上の注意点

書面決議は株主総会を実際に開催しないため、「議事録」ではなく「同意書」や「決議書」として書面を残すのが一般的です。
この書面が、登記申請時には「株主総会議事録」に代わる効力を持ちます。

① 書式名の選び方と表現例

書面決議を証明する書式には、以下のようなタイトルがよく使われます。

・「株主全員同意書」
・「株主総会決議省略書」
・「書面決議書」

内容としては、「会社法第319条に基づき、株主総会の開催を省略し、以下の決議を行う」旨を明記し、その後に具体的な決議内容(例:取締役選任、定款変更)を列挙します。

② 登記に添付する際の形式的要件

法務局へ登記申請を行う場合、書面決議の同意書には次の要件が求められます。

項目 要件・注意点
株主の署名・押印 個人は署名(または記名押印)、法人は社印または代表者印。実印でなくても可だが明瞭に
決議日 原則、書面に記載された日を「決議日」として登記簿に反映。記載なしはNG
同意者の全員記載 株主全員の氏名/名称と住所が記載されていること(法人の場合も含む)
株主リスト 役員選任等では株主リストと照合されるため、一致していることが前提


③ 議事録との違いに注意

項目 通常の株主総会議事録 書面決議による同意書
書式名 株主総会議事録 株主全員同意書 など
作成主体 議長 or 議事録作成取締役 株主自身が同意した書面
出席要件 定足数などに左右される 株主全員の同意で足りる(出席不要)
記名押印 出席取締役等の署名 同意した株主の署名(登記では必須)


④ 書面決議による登記が特に有効なケース

・役員変更(社内承認が済んでいて開催の必要がないとき)
・定款の軽微な変更(商号変更・目的追加など)
・事業年度変更、公告方法変更など形式的な議案

※一方で、議論を要する案件や利害関係人がいる案件では不向きです。

書面決議はいつ使う?避けるべきケースと実務判断

書面決議は非常に便利な制度ですが、「いつでも使っていい」わけではありません。
誤った使い方をすると、決議の無効や後日トラブルにつながることもあります。

ここでは、実務上「書面決議を使うべき場面」と「避けたほうがよい場面」を整理し、司法書士としての視点から判断のヒントを提供します。

① 書面決議を活用すべきケース

ケース 解説
株主が少数または同族関係者のみ 持ち回りのような形式でスムーズに意思決定できる
毎年の定時株主総会(儀礼的な内容) 決算承認や役員の重任など、反対の余地がないときに有効
物理的な出席が難しい 地方・海外の株主がいる場合の実務負担軽減
登記目的で手続を迅速に進めたい 決議日を柔軟に設定でき、申請準備が効率的になる


② 書面決議を避けるべきケース

ケース 解説
株主間に利害対立がある 書面決議は全会一致が前提。反対株主がいると無効になる
会社外部への説明が必要な案件 株主総会の「開催」実績が求められる場合には不適切(例:ファンドとの契約時など)
形式だけで中身が整っていない 決議内容の証拠性が曖昧だと、登記や銀行・税務上で不利になることも


③ 実務ポイント:定時総会は「議事録」or「書面決議」?

実際の登記実務では、次のような運用がされています。

・株主が2〜3名の会社 → 書面決議で毎年処理するケースが多い
・株主が複数名いるが実質支配関係にある → 書面決議でも問題なし
・代表取締役交代などの重要案件 → 総会開催+議事録作成が無難

司法書士からのアドバイス

・書面決議は「楽だからやる」のではなく、株主の構成・信頼関係・議題の性質を見て慎重に判断すべきです。
・会社法第319条を形式的に満たしていても、実質的な合意がなかったと見なされれば、意思決定の正当性が争われる可能性があります。
・司法書士に相談すれば、議題に応じて「書面決議でOKか」「総会を開くべきか」を助言できます。

手続きのご依頼・ご相談

本日は、株主総会の書面決議について、活用条件・書式・注意点を網羅的に解説いたしました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。



本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

会社法人登記(商業登記)の

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