株主総会

株主総会議事録の記載事項とは?形式・記載順・実務判断の注意点を網羅解説

株主総会議事録に記載すべき事項

株主総会が開催されれば、必ず作成しなければならないのが「株主総会議事録」です。
しかし、形式的に整っていればよいと思い込んでいると、登記申請時に補正がかかることもあります。特に、役員選任や本店移転などを伴う株主総会では、議事録の記載方法が不備だったために補正指示が出されるケースも少なくありません。
本稿では、株主総会議事録に記載すべき事項の整理と、司法書士が実務でよく直面するポイントを、わかりやすく整理します。

議事録に必ず記載すべき法定事項(会社法施行規則72条)

株主総会議事録に記載すべき事項は、会社法施行規則第72条第3項に列挙されています。
具体的には、以下のとおりです。

記載項目 解説
① 開催日時・場所 書面または電磁的記録で作成する必要あり。オンライン出席の方法も含む。
② 議事の経過の要領およびその結果 いわゆる「決議内容」の骨格となる部分。実務では記載ミスや形式不備が最も多い。
③ 一部の重要な発言内容(特定条文に該当する場合) 発言の要旨を記載する。必ずしもすべての発言を記載する必要はない。
④ 出席した役員の氏名 取締役・監査役・会計参与・会計監査人など。誰が該当するかの判断がポイント。
⑤ 議長の氏名(議長がいる場合) 「議長:●●」でも「●●が議長となり」でも形式上問題なし。
⑥ 議事録作成者の氏名 会社法で新設された要件。記名押印義務が廃止された背景とセットで理解する。

このほかにも、実務上は以下のような「法定外の慣例記載」も広く行われています。

・出席株主数、議決権総数、委任状の有無
・発行済株式総数や定足数の充足確認
・議決権行使書の数や議決権数

これらは法定事項ではないものの、株主総会の有効性を担保するための要素として、補足的に記載するのが実務の通例です。

項目別 実務記載のポイントと注意点


① 開催日時・場所の記載

株主総会の議事録には、開催日時と場所を必ず記載しなければなりません。
この項目は一見シンプルですが、実務ではいくつかの「落とし穴」があります。

【実務ポイント】
日時は「西暦」でも「元号」でも可ですが、表記が混在しないよう統一が必要です。
・時間帯の記載は「午前」「午後」で曖昧になるケースがあるため、可能な限り「○時○分」まで明記したほうが無難です。

【場所の記載:登記の観点からの注意点】
・「本店において開催」と記載する場合、登記上の本店所在地であることが前提になります。
・「本社」や「〇〇事務所」などと表現する場合は、具体的な住所を記載するのが実務上の安全策です。
・特に以前は、「本店またはその隣接地」以外で開催した場合に定款添付が必要とされた背景もあり、旧来の実務運用が残っているケースもあります。

【現在の傾向】
・オンライン会議による出席や外国開催など、「開催場所の柔軟化」が進んでいます。
・それでも、誰がどこにいて、どのように出席していたのかは記録しておくべき情報として、議事録に明記する企業が増えています。

② 出席株主・議決権数などの記載

議事録に「出席株主の議決権数」や「定足数を満たしているかの確認事項」を記載することは、法定事項ではありません。
しかし、実務では、総会の有効性を裏づけるための事実関係として、必ずと言っていいほど記載されます。

【記載例(非上場企業の場合)】

発行済株式総数 100株
議決権総数 100個
出席株主数 2名
出席株主の議決権数 100個(全議決権の100%)

【上場企業の記載傾向】
・書面投票・インターネット投票の内訳を分けて記載
・出席株主ごとの数値が変動するため、ドラフト段階では「●●株・●●名」と仮記載しておき、後日精査
・法務局の登記審査において、「基準日後に発行された株式が含まれている」と補正されるケースもあり

【実務上の補正事例】
・議決権総数の記載が、基準日以外の情報をもとにしていて補正になった事例あり
・たとえ法定記載事項でなくても、誤記が明白な場合は補正対象になる

出席役員の記載は「いつの地位」で判断するのか?

株主総会議事録には、出席した取締役・監査役などの氏名を記載することが求められます。
しかし、総会で役員の選任議案がある場合には、「その人が“いつから取締役なのか”」を判断しなければなりません。

① 原則:総会開催中の時点で「すでに取締役である者」

まず、株主総会の議事録に「出席取締役」として記載されるのは、原則として以下の人物です。

・総会の開始時点で取締役の地位にある者
・総会中に選任され、即時に就任承諾した者(臨時総会でよくあるパターン)
・形式上は辞任しているが、権利義務取締役として引き続き在任している者

② 就任承諾のタイミングによって扱いが変わる

就任承諾のタイミングにより、議事録上の扱いが以下のように異なります。

ケース 扱い 議事録での記載例
株主総会で即時に就任承諾した新任取締役 出席取締役として記載 氏名を「出席取締役」として記載
株主総会終結後に就任承諾した場合 記載対象外(余事記載は可) 「当該総会において選任され、終結後就任承諾予定」と補足記載する例あり
特定日を就任日とした期限付き選任 記載対象外(未就任) 必要に応じて補足説明(例:就任予定日:○月○日)


③ 監査役から取締役に就任する場合などの“兼任交代パターン”

次のような複雑なケースもあります。

・株主総会開始時:監査役
・総会中に辞任し、同じ場で取締役に就任

このような場合は、同一人物が「出席監査役」と「出席取締役」に該当するため、議事録上2箇所に記載することになります。
見た目には違和感があるかもしれませんが、法的には正確な記載です。

④ 出席役員を記載しないとどうなるか?

これは法定記載事項のため、記載漏れは重大な瑕疵となりえます。
また、後日の登記や監査の際、正しく出席役員が記載されていないと、補正・説明要求が入る可能性もあります。

実務ポイントまとめ

判断軸 内容
就任時期 株主総会の「開催中」に就任したかがカギ
記載の要否 即時就任なら記載、総会後就任なら原則記載不要(余事記載可)
複数役職交代 兼任する場合でも、別々に記載が必要なこともある


議長と議事録作成者の記載ルールと実務判断

株主総会の議事録には、次の2つの人物の氏名を記載する必要があります。

・議長の氏名(※議長が存在する場合)
・議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

それぞれ、単なる形式的な記載に見えて、実務上の判断を伴うケースが多い項目です。誤解しやすいポイントを整理しましょう。

① 議長の氏名

【原則】
会社法上、「議長が存在する場合にはその氏名を記載する」ことが求められています。
ただし、議長の存在は義務ではなく、定款等で定めていない場合は置かないことも可能です。
もっとも、実務上は株主総会に議長がいないケースはほとんど存在せず、議長がいることを前提とした議事運営が通例です。

【記載方法】
・「議長:取締役●●」のように明示的に書く
・または、「取締役●●が定款の定めにより議長となり…」と文中で説明しても可

【議長の選定と定款】
多くの会社では、定款で「代表取締役が議長となる」と定めています。
もし複数の代表取締役がいる場合には、株主による選任を明記しておくか、議長選任の議案を冒頭に上程することもあります。

② 議事録作成取締役の氏名

この項目は、会社法施行以後に新たに追加された法定記載事項です。
従来は出席取締役や議長の記名押印があれば足りていましたが、現在では記名押印義務が廃止され、代わりに「誰が議事録を作成したか」を明示することが義務付けられました。

【記載方法】
・「議事録作成者:取締役●●」と記載
・または文中で「取締役●●が議事録作成者となり…」とする方法も可

【議事録作成者になれるのは誰か?】
これが実務上の大きな論点です。結論としては、以下のように整理されます。

ケース 作成者になれるか 解説
株主総会の時点で在任中の取締役 最も一般的なパターン。代表取締役が多い。
株主総会で選任され、即時就任承諾した新取締役 就任の効力が発生していれば問題なし。
株主総会の終結後に就任承諾した取締役 総会中はまだ取締役でなかったため不可。
株主総会で解任された取締役 作成権限を失っているため不可。

※この点は、登記実務や書籍(商業登記ハンドブック等)によっても見解が分かれる部分です。

【出席していない取締役でもよい?】
学説上は、「議事録作成時点で取締役であれば、必ずしも株主総会に出席している必要はない」とする見解もあります(葉玉先生の最終見解)。
しかし実務上は、総会に出席し、かつ在任していた取締役が作成者となるのが無難とされています。

【代表印の押印】
記名押印義務は廃止されていますが、代表取締役が議事録作成者となる場合、代表印を押す運用を維持している企業も多いのが現状です。
登記申請や社内証憑との整合性の観点からも、今なお一定の実務的意味を持っています。

リモート出席・外国株主・開催場所に関する実務と記載方法

近年、外国人株主の増加やオンライン会議の普及に伴い、株主総会が日本国外やリモートで開催されるケースが増えています。
このような場合、議事録への記載はどうすべきでしょうか。

① 「当該場所に存しない」出席者がいる場合の記載

会社法施行規則72条では、「株主総会が開催された場所」に取締役・株主等がいなかった場合の出席方法を記載することが義務づけられています。

【記載例】
・「取締役●●は、電話会議により出席した」
・「株主総会は本社において開催されたが、取締役●●および監査役▲▲はテレビ会議により出席した」

これは、実際に議決権行使が適切に行われたか、後日争いが起きないようにするための保全措置でもあります。

② 株主が国外にいる場合の扱い

株主が外国に居住しており、総会に物理的に出席できない場合には、次の方法が検討されます。

状況 議決権の扱い 議事録の記載例
株主が100%外国法人で代表者も不在 電話会議等で出席、または委任状提出 「出席株主:1名(電話会議による出席)」など
株主が複数で一部のみ国外 委任状またはリモート出席で対応 「出席株主:●名(うち●名はリモート)」など

※株主の氏名や議決権数を記載する義務はありませんが、議決権の管理と有効性の説明が可能となる程度には記載すべきです。

③ 開催場所が日本国外の場合の注意点

会社法上、株主総会の開催場所に法的制限はありません。
そのため、日本国外で開催することも可能です。ただし、次のような実務配慮が必要です。

・総会の場所が株主にとって出席困難な場所ではないか
・定款で場所の定めがある場合はその遵守
・通常の会場ではない場合は議事録に具体的な住所を記載

開催場所と役員の居住地・株主の拠点が一致しない場合は、「なぜその場所で開催したのか」についても理論武装が必要になることがあります。

④ 議長が不在地にいる場合の対応

たとえば、議長予定者が海外にいる場合に日本で総会を開催するケースでは、そのまま議長に就任させることは実務的に不自然と判断される場合があります。

このようなケースでは、

・出席可能な他の取締役に議長を委任する
・株主の同意により別の者を議長とする決議を冒頭に行う

といった対応が安全です。

実務ヒント:柔軟な議事録表現の工夫
リモートや外国株主が絡む場合、定型的な書式では対応しきれないことがあります。
そんなときは、以下のような表現を組み合わせると効果的です:

出席株主の数:2名(うち1名は電話会議により出席)
出席株主の議決権数:100個(うち30個は電話会議による出席株主によるもの)

このようにすれば、氏名を明示せずとも、議決権の有効性・出席状況が明確に示せます。

手続きのご依頼・ご相談

本日は、株主総会議事録の記載事項について、網羅的に解説いたしました。
会社法人登記(商業登記)に関するご依頼・ご相談は、千代田区の司法書士法人永田町事務所までお問い合わせください。



本記事の著者・編集者

司法書士法人永田町事務所

商業登記全般・組織再編・ファンド組成・債務整理などの業務を幅広く取り扱う、加陽 麻里布(かよう・まりの)が代表の司法書士事務所。
【保有資格】
司法書士登録証

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