非取締役会設置会社における取締役選任と株主総会議事録の実務【第1回】代表取締役の選定方法と登記実務における留意点
取締役会非設置会社に多い「直接選定方式」
中小企業やスタートアップの多くが採用する「非取締役会設置会社」では、取締役会が存在しないため、代表取締役の選定や取締役の選任における実務が大きく異なります。
とくに「代表取締役の選定方法」が定款によって定められているか否かにより、登記に添付すべき書類や押印方法も変わってきます。
本シリーズでは、登記申請実務の視点から、「非取締役会設置会社が取締役を選任した際の株主総会議事録」の扱いについて、よくある誤解や商業登記規則の条文解釈を交えながら整理していきます。
取締役会非設置会社とは
まず前提として、「取締役会非設置会社」とは、会社法上の機関として取締役会を設置していない株式会社を指します(会社法326条2項)。この場合、取締役は1名以上いれば足り、取締役会を構成する必要がありません。
このような会社においては、代表取締役の選定方法として、主に以下の2つの方式があります。
代表取締役の選定方法 | 定款の定め | 登記上の取り扱い | 商業登記規則 |
---|---|---|---|
株主総会の決議による選定(直接選定) | 必要(明記) | 議事録に会社実印(代表印) | 第61条6項1号 |
取締役の互選による選定(間接選定) | 必要(明記) | 互選書+定款添付 | 第61条6項2号 |
※定款でどちらの方法を採用するかを明示しておくことが実務上必須です。
代表取締役の「選定方法」は登記事項ではない
ここで混乱しやすいのが、「代表取締役の選定方法」は登記事項ではなく、定款により定められているに過ぎないという点です。
そのため、法務局は提出された書類のみからしか代表取締役の選定方法を判断できません。
つまり、定款が登記申請に添付されない限り、登記官はその会社が「株主総会で代表取締役を選定しているのか」「取締役の互選で代表取締役を選定しているのか」を知る術がないのです。
したがって、たとえば「代表取締役の就任登記」が伴わない取締役選任の場合には、代表者の選定方法によって議事録に押印すべき印鑑が変わることはありません。商業登記規則61条6項の適用対象となるのは、あくまで「代表取締役の就任を伴う登記」です。
登記添付書類の扱いは、選定方法でどう変わる?
以下のように整理できます。
代表取締役の選定方法 | 添付書類 | 定款の添付 | 押印者・印鑑 |
---|---|---|---|
株主総会決議(直接選定) | 株主総会議事録 | 不要 | 議長と出席取締役の会社実印または印鑑証明付き個人印 |
取締役の互選(間接選定) | 取締役互選書 | 必要 | 出席取締役の個人印+印鑑証明書 |
この区別を理解していないと、誤って登記添付書類に会社の実印を押させる、または印鑑証明書を添付し忘れるなどの実務ミスに直結しかねません。
次回【第2回】では、商業登記規則61条4項・6項の文言を丁寧に読み解きながら、実際の登記例を通して「取締役就任と代表就任の違い」や「就任承諾書に必要な印鑑証明書の要否」について掘り下げていきます。
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【非取締役会設置会社における取締役選任と株主総会議事録の実務】
・シリーズ第1弾リンク:代表取締役の選定方法と登記実務における留意点
・シリーズ第2弾リンク:商業登記規則61条の条文解釈と「押印要否」の実務
・シリーズ第3弾リンク:就任登記の添付書類と押印実務をめぐる特殊ケースとその理論背景